プレセプシンは敗血症患者で血中濃度が特異的に上昇するタンパク質として、2002年に本邦で発見された新規敗血症マーカーです。従来の敗血症診断薬としてCRP、PCT(プロカルシトニン)が用いられてきましたが、プレセプシンはこれらと比較して以下3つの特長があります。
- 敗血症の診断に際し、より早期に上昇する
- 侵襲の大きい外傷・熱傷・外科手術などの影響を受けにくい
- 臨床経過(重症度)をより良く反映する
我々は、可溶性CD14分子(soluble CD14: sCD14)のうち、従来のsCD14の分子量として報告されている49kDaもしくは55kDaと分子量が異なる、13kDaの可溶性CD14サブタイプ(sCD14-subtype:sCD14-ST)を発見し、これを「プレセプシン(presepsin)」と命名しました(図1)。
sCD14はヒトを含む哺乳類の血中に認められ、その役割はlipopolysaccharide(LPS)や他の細菌リガンドと結合し、内皮、上皮細胞などCD14を有さない細胞を活性化させることです。
分子量13kDaの1-64アミノ酸前後を含むN末端CD14の断片
敗血症におけるsCD14とプレセプシンとを比較したところ、プレセプシンはsCD14との相関性はなく、より敗血症診断として有用であると共に、重症度も評価できる可能性が示唆されました。
ウサギ敗血症モデルを用いたプレセプシンの産生機序に関する報告では、プレセプシンはLPSを投与した敗血症モデルでは上昇せず、手術により腹膜炎を起こした敗血症モデルで上昇することがわかっています。これより、プレセプシンは単なる炎症性のマーカーではなく、菌が存在する場合にのみ上昇するマーカーであることが推定されました。さらにウサギ顆粒球を用いた研究により、産生機序には貪食が関係しており、アスパラギン酸プロテアーゼが関与してプレセプシンが切り出されてくることが示唆されました。
プレセプシンにはLPSの結合能力はなく生物化学的機能は不明ですが、感染に伴って顆粒球等による貪食が起こることで細胞内のカテプシンDを代表とするアスパラギン酸プロテアーゼが活性化され、細胞内に取り込まれたCD14を切断し、産生されたプレセプシンは速やかに細胞膜を通過して血中に放出されると推定されています(図2)。